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わたしたちは、氷砂糖をほしいくらいもたないでも、きれいにすきとおった風をたべ、桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます。

またわたくしは、はたけや森の中で、ひどいぼろぼろのきものが、いちばんすばらしいびいどろや羅紗や、宝石いりのきものに、かわっているのをたびたび見ました。

わたくしは、そういうきれいなたべものやきものをすきです。

これらのわたくしのおはなしは、みんな林や野はらや鉄道線路やらで、虹や月あかりからもらってきたのです。

ほんとうに、かしわばやしの青い夕方を、ひとりで通りかかったり、十一月の山の風のなかに、ふるえながら立ったりしますと、もうどうしてもこんな気がしてしかたないのです。ほんとうにもう、どうしてもこんなことがあるようでしかたないということを、わたしはそのとおり書いたまでです。

ですから、これらのなかには、あなたのためになるところもあるでしょうし、ただそれっきりのところもあるでしょうが、わたくしには、そのみわけがよくつきません。なんのことだか、わけのわからないところもあるでしょうが、そんなところは、わたくしにもまた、わけがわからないのです。

けれども、わたくしは、これらのちいさなものがたりの幾きれかが、おしまい、あなたのすきとおったほんとうのたべものになることを、どんなにねがうかわかりません。

                                            「 注文の多い料理店 」

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辻仁成の小説タイトルではないが・・・


二十歳になるかならないかの頃、「藤沢の家」に居て新聞配達をしながらサーフィンをしていた時期があった。その「藤沢の家」とは新聞専売所の専業の宿舎で、かなり古びてはいたが一戸建てで畳部屋が3部屋と広い台所があり、おまけに草だらけではあったが庭があり、その庭にはシャワーの設備までついていて、一人で住むには充分すぎる程の大きさだった。
好きなことを好きな場所で好きな人たちと好きなだけやっていたあの頃。
本当にいろんな人たちが日々そこにやってきては、先のこととかもなにも考えずに、明け方まで酒を飲んでは海に入り、夏の照りつける日差しの日も、台風の荒れ狂う波の日も、真冬の凍てつくような海の日も、ただただ海に入っていたあの頃。

あご、えび、たつまろ、しげひと、よしたか、こうしろう、くにじ、ちはる、たつや、ともこ、みほこ、つとむ、わきた、さゆり、
もっともっとたくさんの人たちが来ていたと思う。

今思うとそこにいたのは1年くらいでしかなかったが、その1年は僕の人生のなかでは一番濃く深い時間で、自分の核となり細胞の隅々まで浸透し、今でも宝物になっている。


昨日、あご・たつまろ・しげひとと、たぶんその時以来ではないかと思うくらいに久しぶりに再会し飲みにいった。

実は、あのとき一番先に挫折をしたのは自分であり、サーフィンをやめ「藤沢の家」からも引越し、そして今まであえてあのときの思い出を封印してきたのかもしれない。それ以降はそのときの仲間たちとも距離をおいていた。だから、昨日会うことには少しのためらいと、少しの抵抗感と、少しの後ろめたさがあったのだ。
でも会った瞬間、まろ顔を見た瞬間、大人になったしげひとの顔を見た瞬間、そしてあごと握手をした瞬間、30年という時間は埋まり、ぼくの細胞は覚醒し、禁断の宝箱の蓋は一瞬で開いてしまった。

そう、
たしかに僕はそこにいた。


あのころはほんとに貧しかった。
腹がへって何か食いたいが、3人の財布の中身の全財産が100円足らずしかなくて、しかたなく袋ラーメンを1個だけ買って、それを3人で分けあってすすっていた事。
深夜まで酒を飲んでも、ぼくは新聞の配達があるので3時には専売所に行き、そして配達を終え帰ってくると、眠たいぼくを無理やり海までつれてゆき、みんなは海にはいっているのにぼくは砂浜でダウンしてしまった事。
記憶の片隅にしか残ってないことや、すっかり忘れてしまっていることをみんなは詳細に覚えていることに感動する。

ああ、あの「藤沢の家」はぼくだけの宝物ではなくみんなの宝物だったんだと、
ぼくだけの核ではなくてみんなの核だったんだと、


もう宝箱の蓋は自分の力で開くことができる。


そう、
今でも僕はそこにいる。


見あげるとまっ青な空に9月とは思えない見事な入道雲が湧き、
そのはるか先のたかい位置に筋状のながい雲が流れている。

夏の象徴の入道雲と、秋の空たかく流れる雲が同居している光景。

深夜も1時をまわった頃、大田区の閑静な住宅街を走っていたら、道のまんなかで50代くらいの女の人がエプロン姿のまま両手を振っていた。いやな予感・・がしたが乗車拒否するわけにもいかず、仕方なく車を止めドアを開けた。

「 どちらまでですか? 」
「 この先の国道に出てください 」
と言って女性はハーとため息をついた。

「 実は徘徊老人を探しているんですよ。前もそこの国道を歩いていたもんですから 」
「 ・・・・・・ 」
ハーと今度はぼくがため息をついた。

立会道路から国道1号線を右折して五反田方面へ向かった。
「 ゆっくり走りますね 」
三車線の国道のいちばん左車線を気をつけながらゆっくり走る。警察にも連絡して探していただいてるんですけどねー、すいませんねー、と女性は恐縮しながら車内から目をこらして外をうかがっている。5つ目の信号を越えたあたりにコーヒーの自販機があり、ひとりの老人がそのぼんやりと光る自販機の前に佇んでいた。

「 イター! 」
その声にびっくりして思わず急ブレーキを踏んでしまった。女性は車からとびだし、おかあさーん!と叫び、老人の元に駆け寄った。一言二言なにか言ったあとにふたりで車に戻ってきた。女性はぼくにお礼を言い、さっき乗ったとこまで戻ってくださいと言った。

「 ひとりで出ないでって言ったでしょ 」
「 はいわかりました 」
老人はわりとはっきりとした口調で返事をした。
「 運転手さんも一緒に探してくださったんですよ 」
「 これはこれはどうもありがとうございました 」
老人はやっぱりはっきりとした口調でペコリと頭を下げた。

やがて自宅に到着すると、ほんっとにありがとうございました、と母子(たぶん)は揃って頭を下げた。


タクシーを6年もやっていると、いろんな面白い客や出来事に遭遇する。
タダ乗り未遂家出少女、ワイシャツ血まみれサラリーマン、ハッピバスディ坊さん、つぶやき五郎おばさん、追跡1・2・3、〇〇〇な女(とても書けません・・)、雨の日は機嫌のいいおじさん、 などなど事欠きません。
こんなおもろい商売はありません・・


外堀通りを赤坂見付方面から溜池の交差点にむかって車を走らせていた。交差点にはコマツの大きいビルやりそな銀行の入ったオフィスビルが並んでいるが、そのビルのエントランス付近に何人かの警官と数人の人だかりができていた。事件でもあったのかなと思って見ていたが、それにしては緊張感が微塵も感じられず、逆に集まっている人たちの顔には笑みさえ見えるのだ。
ぼくは右折車線に入っていたので信号が変わるまでけっこう時間がかかる。興味深く様子をうかがっていると、やおら警官がゆっくりと歩きだし、集まっていた何人かもまたゆっくりと警官のあとについていった。すれ違う人々は警官の足元のあたりを見ながらやはり微笑んだり、中にはケイタイを下方に向け写真を撮っている人もいる。

なんと警官の後には、親カルガモを先頭に3匹の仔カルガモ一家がひょこひょこと歩いていたのだ。
おお!これがカルガモ一家のお引越しかー!と、感動している間に信号が変わり車が動き出した。
梅雨も明け、うだるような暑さの中、カルガモたちはニンゲンたちのことなどどこ吹く風といったようにひょこひょこひょこと歩いている。その姿はひょうきんであり愛しくもありこっけいでもあった。

でも・・と、ふと考える。カルガモのお引越しは皇居のお堀とかあの辺ではなかったっけ・・ 。それにテレビやマスコミ、見物人が雑踏するイメージがあったのだが。果たして僕がさっき見たカルガモ一家のお引越しはまるで地味で、人の群れといっても十人いるかいないかくらいで、行き交う人々がただ微笑むくらいで、もしかしたら彼らはモグリのカルガモ一家だったのだろうか。皇居のお堀のカルガモ一家のパロディをやっていたのだろうか。それになんであんなオフィス街を歩いていたのだろうか。いったい彼らはどっから来てどこに行こうとしていたのだろうか。謎は深まるばかりであった。
そういえば人をくったような彼らのあのひょこひょこ歩きの後ろ姿には哀愁が漂っていたような気がした。
こんな文章、こんな物語を書いてみたい、と思った小説にめぐり合った瞬間。
ああ、ぼくはずっと君を探してたんだ、と深い悦びに感じ入る。

ストーリー的なものはほとんどなく、過去の記憶とその風景を淡々と描いているだけなのだが、物語に吸い込まれていくのではなく、わりと醒めた自分の細胞にすっぽりと溶け入るような、そんな感覚。
何気ない光景の描写のなかに、既視感を見、狂気を見、光と絶望を見る。

その 「台風の眼」 を、ぼくは愛しい人を撫でるように、ゆっくりとゆっくりと時間をかけて読んでいく。

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