忍者ブログ
| Home | 普通の日記 | | 昔話 | ひとりごと | 読書 | Other |
[65]  [64]  [63]  [62]  [61]  [60]  [59]  [58]  [57]  [56]  [55
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

雨が小降りになりかけている。庭の樹々がいつのまにかうっすらと緑づいてきているのに初めて気づく。低く垂れこめていた雨雲が見ている間に薄れ初めて、南山の頂を隠していた霧が消えてゆく。

雨は降り止んではいない。雨が小降りになるというのは、落ちてくる雨の総量が少なくなるというだけだろうか。一滴ずつの雨滴そのものも小さくなるのではないのか。本気に考えるというのでもなく、顔を窓ガラスに近づけながら、ふと思った。

路地の電柱から電線が二本、庭の樹々の間を抜けて、二階のすぐ下あたりまで通じている。電線はゆるくたわんでいる。その一番たわんだところに、電線全体に降った雨が集まってきて、少しずつ水滴が膨んで来ては、もう落ちるぞ、と思ってからさらに数秒間膨み続けて、意外に大きな滴になってから、やっと急に落ちる。雨の滴ふとつずつを見つめたことはこれまでもなかったと思う。降っている雨の何倍もの大きさにまで膨み続けるようだ。そして電線を離れる瞬間、紡錘形になって落ちるのか、それとも球体のままなのか。注意していても離れる瞬間を見逃してしまう。電線を離れたあとは確かに球体の形で、ひどくゆっくりと落ちてゆく。

そんな水滴にいつのまにか注意を集中したことが気持を落ち着かせたのか、そのときはほとんど放心状態に近い快い気分だったから水滴一個ずつの大きさと動きを、まるで拡大鏡で覗くように眺めることができたのかわからない。だがこんなに意識が深く開かれてしかも集中したことはなかったように思う。そしてさらに奇妙なことは、これからも一生多分ないだろうとはっきりとこのとき感じたことだ。

                                                「 台風の眼 」
 

PR
この記事にコメントする
name
title
color
mail
URL
comment
password   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
カレンダー
04 2025/05 06
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
最新コメント
[08/31 夢使い]
[08/31 つきの]
[07/05 じゅんぎ from ケイタイ]
[07/05 m_a]
[07/05 じゅんぎ]
[07/03 NONAME]
プロフィール
HN:
夢使い
HP:
性別:
男性
自己紹介:
       山登りの好きなタクシードライバー
Powered by Ninja Blog Photo by 戦場に猫 Template by CHELLCY / 忍者ブログ / [PR]