忍者ブログ
| Home | 普通の日記 | | 昔話 | ひとりごと | 読書 | Other |
[25]  [24]  [23]  [22]  [21]  [20]  [19]  [18]  [17]  [15]  [14
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

季節はずれだけど桜の話。

五反田から山手通りを目黒方面に進行し、東急線の高架下をくぐって左に入ると「かむろ坂」がある。
なだらかな坂道とゆっくりくねりながら上ってゆくその道は桜並木になっており、桜の季節になると見事な桜のトンネルになる。
千鳥ヶ淵や目黒川などのいわゆる「桜の名所」とよばれている華やかなとことは違い、地味で静かな隠れた桜の名所。ひっそりとたたずむその通りがぼくは好きだ。

桜の時期だけではなく、多くのタクシードライバー達にとってもそこは格好の休憩ポイントでもある。
本通りから逸れたわき道なので車の往来も少なく、道路わきには公園と公衆トイレがあり、いつもドライバー達はそこで用をたし一服している。
花の散ったあとの鮮やかに色づいた緑の葉桜はもっと好きで、枯葉の時季はゆるやかな車道に舞う茶色に変わった葉っぱたち。雨のふる明け方には、太陽に照らされた桜の木と濡れたアスファルトが眩しく反射する。

3つほど遡った桜の季節。
大井町で若い女性とそのお母さんらしき二人連れのお客さんが乗車した。
このタクシーチケットの有効期限が今日までなんですよ、と女性はそのチケットをぼくに見せ、母と一緒に桜の名所巡りをしたいと言う。なるほど、明日にはただの紙切れと化すそれの有効活用としては正しい選択だ。ぼくは都内の桜スポットを何ヶ所か提案し案内した。そして、最後にどういても行きたいところがあるんです、とお母さんが言った。
かむろ坂の桜が見たいんです。

かむろ坂の公園脇に車を停めると、母と娘は最後の花見散歩に出ていった。
ぼくは自動販売機で買った缶コーヒーを飲みながら、桜の木の下のベンチに腰かけてふたりを待つことにした。しばらくして戻ってきたふたりは、来てよかったねー、うん、かむろ坂の桜がいちばん好き、と話しながら車に乗りこんだ。

そんな3年前のことを思い出しながら桜の下の車内でうとうとしていると、コンコンと窓ガラスをたたく音がした。
「すいません、目黒川までいきたいんですけど」
さあ仕事だ。
ぼくはシートベルトを締め直し、ドアを開けた。


PR
この記事にコメントする
name
title
color
mail
URL
comment
password   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
カレンダー
04 2025/05 06
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
最新コメント
[08/31 夢使い]
[08/31 つきの]
[07/05 じゅんぎ from ケイタイ]
[07/05 m_a]
[07/05 じゅんぎ]
[07/03 NONAME]
プロフィール
HN:
夢使い
HP:
性別:
男性
自己紹介:
       山登りの好きなタクシードライバー
Powered by Ninja Blog Photo by 戦場に猫 Template by CHELLCY / 忍者ブログ / [PR]