龍郷の家はかなり古い。
とにかく古い・・
コンクリート造りの「オモテ」のある家はそうでもないが(と言っても古いが・・)、繋がってる「トゴラ」と台所のある木造の家の方が、かなり古くガタがきている。
台所の床はミシミシして柱や棚は油まみれ、風呂場の浴槽はつかってないらしく、ほこりや水垢で汚れたまま。母がかつて機織をしていた部屋は天井に穴があいている状態。もう使ってない機織器はホコリをかぶり、蛍光塔は消え、糸があちこちに散らばっている。
「トゴラ」はいつも母がテレビを見ながらくつろいでいる所。
この部屋だけは母は掃除をしているらしく、荷物が散乱していながら、わりときれいだ。むかしいた猫はもういない。母に訊くと「わからない」と言う。
「オモテ」と「トナリ」と「勉強部屋」・・
兄弟4人、この3畳ほどしかない「勉強部屋」で遊びむんかげしたりわじわじしたり、ひっきゃぶたりたまに勉強したりむじきられたりとぅらったりないたり、とにかく・・・・
柱に『ラジオたいそうカードさげ』とマジックで書かれていた。よく見ると柱にはいくつもの落書きがある。なんかの日付やウンコの絵、数字の羅列。ナイフかなんかで削った跡まで・・
あのころは、ぬぅんしゅま考えずに、それでも必死にいちにちいちにちを生きていた。全力ではしっていた。まんげて擦りむいた膝の血を舐め、雨に濡れてくつに溜まった泥水を頭からかぶり、木からわざと落ちて驚かせたり。
高校を卒業して兄がこの「勉強部屋」を、そしてこの家を出て行った。そのつぎに姉ふたりが出ていき、最後に「勉強部屋」はぼくひとりのものになった。
ぼくだけの勉強部屋になった。
ぼくだけのべんきょうべやになった。
そしてぼくもべんきょうべやを出ていった。
今、その部屋には蜘蛛の巣が張っている。古い布団がいくつも押しこまれ、ゴキブリの糞まみれの洋服ダンスがほこりをかぶっている。着なくなった洋服の入ったビニール袋、なにが入っているのかわからないダンボールの山。
ぼくだけのべんきょうべや
兄弟4人の勉強部屋
だれもいなくなった勉強部屋
母ちゃんの勉強部屋
だれもいないべんきょうべや
蜘蛛の巣だらけになった勉強部屋
どうしようか
まずは掃除からはじめようか
それともおもいでにひたろうか
ひっきゃぶろうか
とぅでなさぬぅ