3時過ぎに奄美空港に到着した。
去年1月に帰ったので、それほどの郷愁感はない。
あのとき感じた期待と失望、喜びと痛み、不安の中の満足感。それらの感情とはまったく異なる、相反した、今この胸のなかの黒く、うごめいているもの。それをどう表現したらいいのかわからない。
故郷のことをこれまでまったく顧みず、好き勝手に生きてきた。
いつの間にかもう故郷よりも東京での生活が長くなっていた。
好きなことしかやらず、嫌なことは避けてきた。
お金がなくなると簡単に借金し、それでも行き詰ると親兄弟に簡単に頼り、そのくせ山の追求のためとネパールまで行き、それが一番の誇りであると思い込み、ひとりよがりな人生は相手の心のなかまで入っていくのが怖く、表面上でしか付き合えない。愛想笑いをして相槌をうち、うんうんと頷きながらまったく人の中には入っていかなかった。「山は人生観を変える」そう、その時はね。全くもって僕の人生は変わらなかった。
夢
空を飛んでいた
小学校の上を
母が買い物帰りで家路についていた
大声で「かーちゃん!!」と叫んだが、母は気づかなかった
役場前で乗り換えのためバスを降りる。
役場がまだやってたので、ついでとおもい転入届の手続きを行う。ここには同窓が2人ほど勤めているはずだが、そんなに広くない室内、見渡しても見当たらない。新しい住民票をもらい、本日よりわたくし島の住人です。
バスの乗り方がいまいちわからず、ふたつほど乗りそびれて、家に着いたのが7時ごろ。
母が待ちくたびれてました。
母は今年で80。
去年よりも急激にガタがきていた。
遅すぎる親孝行。
あまりにも遅すぎた。
ただいま
かあちゃん
柱の時計がまた止まっていた。
ギィー ギィー
と、左右にあるふたつの螺旋をまいた。
長針をくるくる回して、7時15分にあわせた。
振子を指で軽くおした。
時計がしずかに動きだした。