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翌日、彼は風の強い午後、監視台で手旗を振る少女を見かけた。色あせたウインドブレーカーを羽織り、少女は沖を行く船舶目掛けて信号を送っていた。赤と白の旗が青空を気持ち良さそうに泳いでいる。彼には、少女が運動をしているようにしか見えなかった。でなければいかれているに違いない、と。
 しばらくその様子を見ていたが、少女の動きは失笑を買う愚かな動きにしか映らなかった。水平線を行くタンカーに手旗の信号が届くとは思えなかったし、かりに届いたとしてこの少女に返事を送る暇な乗組員がいるとも思えなかった。
 彼は浜辺に腰を下ろし、監視台を見上げた。彼女の真剣さに次第に引きつけられ、口許に力が入っていく。旗は瞬間空中に静止したかと思うと引き戻されそれから再び力強く空高く押し出された。彼の眼球は手旗の動きをいつしか追いかけていた。新体操を見ているようなリズミカルな躍動と規則正しい美が彼を心地よくさせる。青空に舞う手旗の赤と白の鮮やかな動きは彼の荒れた精神に何か優しい信号を送ってきた。彼女が送る信号の意味は分からなかったが、伝えようとする意思の強さは明快だったし、そういう生の力は彼が元来持ち合わせてはいないもので、不思議に興味が湧いた。
 船が水平線の先に消えた後、やっと少女は監視台から下りてきた。彼は立ち上がり、砂を払い、何を伝えようとしているの、と質問をした。すると少女は一点の曇りもない顔で、船長、応答願います、わたしはマユ、十六歳、この浜辺の監視員です、と言った。同時に彼女の口許は緩み、歯に光が跳ねた。監視員だって? 少女の馬鹿げた思い込みに呆れながらも、やけに自信に満ちて言うものだから、からかいたくなる。何を監視してんだ、聞き返すと、少女は、この浜辺の安全、と微笑みながらもはっきりと告げた。

                                              「 千年旅人 」
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